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大日本水産会
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BUTTON 米国政府へ日本業界の意見書送付−次期CITES会議へ向けて−

大日本水産会は、9月6日、米国政府内務省に対し、明年4月に予定されている第11回ワシントン条約締約国会議に向けて米国政府が検討している提案について、以下の日本業界意見を送付した。今後も、国内はもとより国際水産団体連合(ICFA)等関係各国業界との連携を強化する等、適宜、対策をすすめていくこととしている。

米国政府内務省宛
第11回ワシントン条約会議
米国政府暫定案に関する意見
1999年9月6日
大日本水産会
米国連邦官報(1999年7月8日付Volume 64,Number 30)で公表された米国政府の暫定案について、日本の水産業界を代表して意見を申し述べる。貴政府の方針確定に際して、然るべく考慮されるよう要請する。
I. 基本的意見


A. 米国政府としては、大西洋メカジキについては大西洋まぐろ類資源保存委員会(ICCAT)で管理されているので、提案しないとの方針を明らかにしているが、これを支持する。
すなわち地域漁業管理機関が科学的な知見に基づき、資源の保存・管理を確保している海産魚種については、地域漁業管理機関に管理を委ねるべきである。かかる立場に基づく米国政府の方針を支持する。


B. 海産魚種をCITESの対象として米国政府が提案することについては、以下に説明するように、CITESが国際機関として健全に機能することに悪影響を与えることになるので反対である。



1. 海産魚種の管理は、国連海洋法条約により、海産魚種に関する科学的情報、専門的な知見を有する地域漁業管理機関を通じて行われることとなっており、資源管理措置の補完的措置としての貿易措置についてもこれらの機関あるいはFAOにおいて適切に取り扱われることが、海産魚種の持続的利用を確保するために最も有効かつ合理的であることから、CITESにおいては、これらの機関の活動を適切に評価し、重複した取組を避けるべきである。



2. CITESは、絶滅のおそれのある種の国際取引を制限することにより、その種の保護を図ろうとするものである。海産魚種、なかんずく、商業漁業対象魚種のなかに、かかるCITESの対象となる種があるとは考えられない。CITESは種の付属書掲載については科学的根拠に基づき種の状態について適切な評価を行い決定すべきである。仮に絶滅の恐れがあるとは考えられない種を付属書の対象とする場合には、CITESの科学的妥当性を損ない、本来の使命の遂行にも支障をきたすこととなろう。

II. 個別意見


A. 決議勧告案



1. 無記名投票

米国は、無記名投票を廃止するか、実施を困難にするべきと述べているが、本会は、その見解に反対である。無記名投票は、アフリカ、アジア、中南米の諸国が、大国や、過激な環境保護団体の圧力をうけずに、自国の意見を表明することを可能とする唯一の方式であり、維持されるべきである。



2. CITESとIWCの強調の再定義




(a) 米国が、IWC決議(51/43)をCITESあるいはその加盟国に送付することは、正当性がない反捕鯨の立場を伝えることになり、CITESを不当に、誤った方向に導くことになる。




(b) いかなるIWCの決定についても、そこに科学的根拠がない場合、CITESがそれを参考とすることは不適当である。
IWCは、科学委員会のアドバイスを無視することによって、資源管理機関としての信頼を著しく喪失しており、このことは以下の事例が示している。





(i) 1982年に採択された商業捕鯨モラトリアムは、ミンククジラのように資源が豊富な鯨種の捕獲さえも禁止しているが、IWCの科学委員会は、資源保存目的としてのモラトリアムの必要性を認めておらず、この決定には科学的根拠がない。
1991年、IWCの科学委員会は、南氷洋のミンククジラ資源を76万頭と推定し、資源にリスクを与えることなく、毎年2000頭以上の捕獲が可能であるとの試算を行なっている。





(ii) さらに科学的根拠がない明らかな事例として、1994年にIWCが採択した南大洋サンクチュアリーがある。このサンクチュアリーは、資源保存上の必要から決められたものではなく、これを定める条約付表には「このサンクチュアリー内では、鯨の資源状態に関わりなく捕鯨を禁止する」と明確に記載されている。


B. 種別提案



1. ホオジロザメ、ジンベイザメ

CITES付属書への掲載提案には、以下の理由から反対する。




(a) 個体群の規模、資源の状況等、生物学的情報また国際取引の状況等、基本的、客観的な情報が欠如している。海産魚種については検討が必要とされている現行の問題のあるとされている掲載基準さえも、満足させる情報がない。またホオジロザメについては、希少種であり近年漁獲量が減っていることを理由として、付表Iへ提案することを考慮しているとしているが、希少種の定義が不明であり、かつ、漁獲量の減少の程度、過去の漁獲量の変動の状況、及び漁獲量統計の根拠等、具体的、客観的な情報がない。
かかる状況の下で、提案に踏みきることは不合理である。米国政府としては無責任との批判を受けることになろう。更に大規模はえなわ、及びさしあみによる混獲を主因として示唆しているが、そのような判断の妥当性を示す客観的証拠の明示はなく、公正な判断は得られない。




(b) サメ資源の保存と管理については、既にFAO水産委員会が問題の具体的、効果的解決を意図して、1999年2月「国際行動計画」を採択し、各国が対応をとりつつある。米国政府もかかるFAOの行動を支持している。
かかる状況の下で、米国政府がCITESをサメ資源管理問題について、介入させようとすることは、FAOの指針によりサメ資源管理問題について適切な対応を図ろうとする各国の意欲を抑制することとなる。サメ資源管理問題についてはFAOの行動に委ねるべきである。



2. マゼラン・アイナメ

漁業資源は、地域漁業管理機関の下で管理されており、全ての漁業資源の資源評価及びその管理のあり方については、第一義的には、これら関係地域漁業管理機関の権限に委ねられるべきである。マゼラン・アイナメ資源に関しては、権限ある地域漁業管理機関として南極海洋生物資源保存条約(CCAMLR)があり、様々な保存管理措置が講じられてきている。
現在、CCAMLRにおいて、マゼラン・アイナメ資源の科学的評価に必要なCCAMLRの規制外の漁獲情報等を収集するために、マゼラン・アイナメの流通・貿易過程における漁獲証明制度の創設を検討しているところである。
また、CITESにおいて海産種に関する付属書の改正を行おうとする場合は、関連する政府間団体との調整を図ることが求められている。従って、CCAMLRの規制対象漁種であるマゼラン・アイナメのCITES付属書IIへの記載提案については、CITES第15条第2項(b)に基づき、CITES事務局は、関係政府間団体であるCCAMLRと協議する必要があることから、CCAMLR締約国である米国は、CITES事務局に提案する前に、CCAMLRと協議することが締約国の責務である。
なお、CITESを通じてマゼラン・アイナメの貿易に付随する輸出許可は輸出国が正当な漁獲による漁獲物である旨のみを証明するもので、マゼラン・アイナメ資源保存措置に貢献する必要な情報とはなり得ず、逆にCCAMLRを通じた関係国の資源管理措置への取組みのインセンティブを失わせる結果になる。
米国政府は大西洋メカジキについて、地域漁業管理機関であるICCATによる管理措置を尊重し、CITES付属書への掲載案を控えるとの立場を明らかにしている。マゼラン・アイナメについても、米国政府が同様の立場を取らなければ、国家として矛盾した姿勢を示すことになる。
いずれにしても、マゼラン・アイナメのCITES付属書IIへの記載は、CCAMLRの取組みを阻害するのみで、何らCCAMLRに貢献するものではないことから、本会としては反対する。

III. ミナミマグロに関する追加情報等


A. ミナミマグロには、1989年以降今日に至るまで、毎年11,750メトリックトンに総漁獲量が設定されている。特に、1994年CCSBTが成立し、地域漁業管理機関の管理下に置かれている。これだけの数量がコンスタントに漁獲されている事実は、ミナミマグロが絶滅の危機に瀕している事は全く無いことを証明する具体的な事実であり、従ってCITESで取上げる理由は見あたらない。


B. ミナミマグロの資源評価について、豪の意見と日本の意見が対立している。1989年に許容漁獲量が大幅に削減されたことから、漁場を限定集中型として縮小した。そのため、近年漁獲の行われていない水域が出現したが、この水域の取扱い方法が、日豪間で大きく異なり、これが資源評価の相違につながっている。
豪は、近年ミナミマグロの漁獲データの無い水域には、ミナミマグロはほとんどいないとの仮定を重視しているため、資源の回復は確認できないとしている。
他方、日本の科学者は、近年漁獲が行われていない水域においても、ミナミマグロは存在するとの仮定を重視し、全体として資源回復傾向は明らかであるとして、3000トン程度のTAC増を主張している。
この見解の差をうめる具体策として、日本は1998年、近年漁獲が行われていない水域で調査を行った結果、一定水準でミナミマグロが存在することが判明し、豪の仮定が誤りであること、及び資源が回復傾向にあることが証明されている。
このような見解の相違はあるものの、豪州ですら、TACを下げるべきとの主張は行っておらず、ミナミマグロをCITES付属書に揚げる根拠は見当たらない。


C. 1996年のIUCNのRed Listにミナミマグロが“Critically endangered”の種として掲載されたのは事実であるが,IUCNのRed List掲載基準は,海産種についてはその生物学的特徴(多産、広範囲分布、等)を勘案しておらず、不適当であることをIUCN自らが認め、見直しをすることとなっている。かかる状況にあるにもかかわらず、現時点においてもかかる不適当なIUCNのRed Listを引用することは、ミナミマグロ資源の状況について一般社会の誤解をいたずらに増幅することとならんことを懸念する。