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大日本水産会
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1999年9月6日 品質対策室長 斎藤寿典
平成7年4月のEUによる日本産水産食品禁輸措置や、同年7月に施行されたPL法、更に翌年大阪府堺市で起こった「腸管出血性大腸菌O-157」による食中毒事件などを契機に、食品の安全性確保への対応策は国の内外を問わず大きな社会要請となり、そうした要請に応える手段として、とりわけHACCP方式の導入・普及対策はここ数年来、嵐のように業界を吹き抜けている。

その間、食品衛生法の改正に伴う「総合衛生管理過程承認制度(通称マル総)」により、我が国における任意のHACCP承認制度がスタートし、乳・乳製品、食肉製品、レトルト・缶詰、魚肉練り製品が政令指定業種となり、それぞれの業界毎にガイドラインを作成し、既に幾多の施設(品目)が承認を得る結果となっている。

また、米国FDAが新たな水産物規則(21CFRパート123)を制定し、米国内において州間流通する水産食品はもとより、輸入水産物に対してもHACCPによる製造管理が義務付けられることとなり、一昨年の12月18日製造ロットより適用とされたため、米国への輸出関連業者にとっては当該規則に準拠したHACCP対応が緊急課題とされてきた。

このような米国サイドからの要求に応えるため、本会は平成9年度以降、米国FDAトレーニングカリキュラムによるHACCP講習会を開催し、既に本年8月までに15回の開催実績を重ねているが、受講者の知識レベルは回を重ねる毎に向上し、昨今の課題演習時における熱心な取り組み姿勢などから、業界内におけるHACCPの急速な浸透を肌で感じている次第である。

こうしてみると、欧米先進諸国が他の食品に先駆け、水産物にHACCP管理を強制義務化したことは、昨今の食品の安全性確保に対する問題の重要性からすれば、災い転じて福となすべきで、大いに歓迎すべき事態と理解したい。

さて、HACCPの導入は欧米においては水産物、我が国においては乳及び肉製品といった具合に、各々の非伝統的食品から導入促進が図られる結果になっており、その国にとって馴染みが薄い食品ほど、安全性の面から見れば危害要因を多く包含しているとも言えよう。

さすれば、我が国にとっての伝統的食品である水産物は、世界に名だたる魚食民族としての永年にわたる食習慣により、品質と安全性の両面における不断の取り組みがなされてきているという有利な条件を付加した食品と言えるわけで、そこにHACCPという道具をはめ込めば、鬼に金棒といえよう。

目下のところでは、行政当局もHACCPを強制義務化する考えは無いとのことであるので、個々の業態にあっては他者(例えばバイイングパワー等)に対する自主的かつ積極的な対応を図るためにも、冷静な対処方で足元を固めてほしいと思う。

今年も食中毒の多発時期を迎え、サルモネラ菌や腸炎ビブリオ、ボツリヌス菌等による事件が発生し、当局による指導通達も出され、その対応に追われる昨今ではあるが、これらの発生原因を見ると手洗いの不徹底や使用水の安全確認の不徹底、商品取扱に関する表示の不明瞭さといった基本的事項に欠陥があったことが明らかにされている。

これらを考慮し、大日本水産会では一般衛生管理の専門家を登録し、現場サイドのニーズに応えるべく、専門講師及び専門コンサルタントの派遣事業を早急に実施すべく、準備を進めているところである。

水産食品に係わる全ての皆様方の地道な自主努力と、本会品質対策室の諸活動に大いなるご理解ご協力をお願いする次第である。